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オトナの社会科・中東からの声を手掛かりに。

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シリア人留学生の言葉3。友人が日本を去る時に語ったことは。



2004年の夏

故郷へ帰るシリア人留学生の

友人を見送りました。




友人は、日本の大学院で

最先端技術を学び、卒業しました。


その研究を生かして日本で就職し、

日本に住むことを望んでいました。




しかしそれは叶いませんでした。





就職活動中、いくつかの会社で

いい感触があったにもかかわらず、

「中東出身のイスラム教徒」と

わかった途端、手のひらを返した

ように相手の対応が変わって、

最終的にはすべて断られたそうです。



相談した指導教授からは、

「じゃあ国へ帰れば

いいじゃないか」

と突き放され、

何のサポートも得ることが

出来なかったそうです。





就学用ビザしか持たない彼が

日本に留まるには、

手段を選ばなければ

他の選択肢もありました。





当時つきあっていた

日本人の女性と

在留資格目当てに結婚するか、


または職もビザもないまま

滞在して彼女に食べさせてもらうか、


あるいは指導教授に

すがりついてでも

職を紹介してもらうか。





そのいずれも、友人は

望みませんでした。


そして友人は、この日本で

居場所を得ることが

出来ませんでした。






就職差別があったのかどうか、

事実を確認することは出来ません。





ただハッキリしていたことは、3つ。




彼はイスラム教徒として

特別の配慮

(礼拝時間を設けたり

戒律食を用意したりすること)を

求めていたわけではないこと。


また、同じ研究室の日本人卒業生は、

この不況下でも全員就職が決定した

一方で、卒業後3ヶ月粘っても

この友人を雇う会社がなかったこと。



そして、拒絶され続けることに

疲れ果てた友人が、

「招待されても日本には

二度と来たくない」と

失意のうちにこの地を

去っていったということです。






友人が失望させられたり

ショックを受けたのは、

指導教授や企業に対して

だけではありません。





アラブ系メディアやネットで

明らかにされるイラク侵攻や

パレスチナの現実を

まったくと言っていいほど

報道しない一方で、

アメリカのニュースソースを

そのまま垂れ流す日本のマスメディア。


「日本がアメリカなしで

やっていけるわけないだろう!

と、テレビで絶叫する日本の政治家。


そして、911の翌日、

「お願いだから私達を

テロしないで下さい」と、

真顔で頼みに来た大学院の同級生…。






日本のことは大好きだった。

人も文化も、歴史も風景も。


他の国にも留学したけど、

暮らすならここだと思ったよ。


ずっとここで暮らしたかった。




でも、自分は日本では

必要とされていなかった。


日本人には、

受け入れてもらえなかった。




これは自分の人生だから、

誰のせいでもないし、

誰も恨んでない。

恨むつもりもない。


ただ、残念だ。

すごく残念だ」。







こうやってわたしたち日本人は、

知らぬ間に、一体何人の

中東の人たちを失望させて

しまっているのか。







私自身は、2001年の911以降、

アメリカの暴走と中東の戦禍を

少しでも食い止めたいと願って、

講演会・写真展・デモ・

大使館や米軍基地への

申し入れ等々

考えられる限りのことに

取り組みましたが、

しかしそれらは結局、

この友人の身に結果することは出来ませんでした。




友人が望んでいるのは、

百万回の謝罪よりも

この現実が変わることだと

いうこともわかっていました。



だから私に出来たのは、

本当にただ一緒に時間を過ごして、

言葉を交わし、

約束することだけでした。





このままにはしないから。


あなたがもう一度来たいと

思えるような日本にするために、

あなた達を迎え入れるような

ところに少しでも変えるために、

出来るだけのことをするから、と。







故郷のシリアへ帰った友人が、

今いったいどうしているのか、

私は知るすべを持っていません。




現在までにシリア内戦による

死者は11万人以上、難民は

210万人以上に上ると言われています。



友人の生死すらわからないまま、

ただ無事を祈ることしかできない。




とても悔しいです。






彼と交わした約束を、自分が

今までどれほど果たせたのかといえば、

忸怩たる思いにとらわれます。



ですが、だからこそ、

いまここで皆さんには、

お伝えしておきたいのです。






日本がこのまま、

不寛容で排他的な方向へ

向かってしまうのか、


それともそうでない道を

探っていこうとするのか、


本当にいまが、分岐点だと思うのです。








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2015225UP シリア人留学生の言葉2。イラク攻撃直前にきいた、「イラクと独裁者と中東の民主化」のこと。

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byしゅくらむ


シュクラム」はアラビア語で「ありがとう」。

筆者が知数少ないアラビア語です。

ここでの出会いと、ここまで読んで下さったことに感謝をこめて。

シュクラム!




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by shuklm | 2015-03-02 21:49 | シリア人の友人のこと・難民・シリア関係